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中華飯 [巷の雑感]

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私が高校生だった時は、電車通学だった。
友人たちと電車に乗って帰ると、ブラブラするのは駅周辺。ちょっと食べて帰ろうか、という話になるのも、よくあること。友人たちには馴染みの店らしいが、私は初めてその中華料理店に連れて行かれた。その頃偏食気味の私は、実は中華料理が苦手で、内心はあまり気が乗らなかった。そして店のカウンターに並んで座ると、友人たちは皆こぞって、中華飯を注文した(大盛を頼むやつもいた)。
この中華飯、ご飯の上に八宝菜のような、ドロっとしたあんかけ野菜が乗っている料理なのだが、これが私の最も嫌いな中華料理。その場の雰囲気で私もそれを注文してしまったのだが、料理が出て来るまでは、友人たちの話はうわの空で、注文を取り消そうか、変更しようか、優柔不断にそんなことを考え続けていると、それを打ち消すように、すぐにその料理が私の目の前に現れた。
隣の友人たちがかぶりつくのを尻目に、ゆっくりと口に運ぶと、意外や意外、実にウマイ。何のためらいもなく、一気果敢に食べてしまった。家で食べ残しては母親に文句を言われていたことが嘘のようだ。それ以後、ちょくちょくその店にはお世話になったのだが、友人たちはその都度いろんな料理を注文するのに、私だけはいつも中華飯を食べ続けていた。本当はもっと美味しい料理も他にあるかもしれないのに。
大学生になって東京に移り住んだ私は、それでもその味が忘れられず、帰郷するたびにその店に足を運んだ。東京でも、もっと有名で高級な店にも行ってみたのだが、あの店の味を超えられるような中華飯を味わったことは、一度もなかった。何年経っても変わらない味は、帰郷の度に楽しみの一つでもあった。そういえば、私の偏食が激減したのは、この中華飯がきっかけだったのかもしれない、と今振り返って思う。
それから二十数年の時を経て、今はその店に歩いて行ける処に住んでいる。駐車場の無い、駅前商店街の一角にあるその店は、同じ町に住んでいても郊外に住む者には、ちょっと行きにくかったのも事実で、ご無沙汰していたのだが、引っ越しによって身近になった。当時は、馴染みの人しか入れないような、小さく暗い店だったように記憶しているが、今は外見はちょっと小ざっぱりと綺麗になったが、相変わらずモダンとかオシャレとは対極になる佇まい。だが、味は昔のままである。
先日、息子を連れて二人で行ってきた。お勧めは?という息子の問に、すかさず「中華飯」。私が初めて行った時は、確か350円だったように記憶しているが、今は550円(税込)のその中華飯を二人で、当時と同じように一気に平らげてしまった。息子の評価は、「この店が、もっと別の場所にあったら、絶対大盛況になるのに」という。確かに、郊外の大型店舗に押されて、シャッターを閉める店の多いこの駅前商店街。そこから更に、一歩入った所にあるこの小さな店。いつも一番安い中華飯しか頼まないのが気が引けるが、この味を忘れられない限り、また来ようと思っている。
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