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夕焼けの詩 その3 [日々の徒然]

前回、「夕焼けの詩 三丁目の夕日 傑作選」の一作を、私なりのダイジェストで紹介しましたが、このマンガは昭和30年代の子供たちの話ばかりではありません。調子に乗ってこの傑作選の第一巻から、もう一話紹介したいと思います。「ある晴れた日に」という話です。
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売れない初老の小説家の茶川さんのもとへ、自由奔放な女性ヒロミさんがやってきた。彼女はいろんなパトロンを見つけては、男たちの間を渡り歩いてきたのだが、今回は深刻な相談があるという。水商売を続けていた実の母が死んで、葬儀を終えてきたのだが、その母の形見の箱が開かないという。実の父のことを何も知らないヒロミさんは、母が生前大切にしていたこの箱の中に、何か手掛かりがあるのではないか、と思っていた。父のことなど、今さら知ったところでどうにもならないことは分かっているのだが、ずっと心の奥底で引っ掛かっていたこと、母が死んで聞けなくなってしまった今、余計に気になってしまう。茶川さんはこの箱を開けられなかったが、箱根細工のカラクリ箱であることが分かったので、作ったところへ行けば開けられるだろう、と思い、ヒロミさんと箱根への旅に出ることにした。
箱根の土産物店を廻って訊ねてみたのだが、この箱は箱根細工のなかでもかなり特殊らしく、誰も開けられなかった。しかし、こんな凝った細工が作れる職人が推測できたので、箱根湯本からさらに奥の工房へ、その人に会いに行ってみると、その職人は重度の病床にあった。形見のその箱を見せると、確かにこれは自分が作ったもので、品評会に出すために特殊な仕掛けがしてあるという。そしてこれは、当時惚れて付き合っていた箱根湯本の芸者に渡したものだという。その言葉を聞いてハッとするヒロミさんだったが、次の言葉を発する前にその人は他界してしまう。
最後の力でその箱を開けてもらったが、中にはヒロミさん名義の貯金通帳と印鑑、指輪だけ。子供を思う母の気持はこもっていたが、父の消息を示すようなものは何も無かった。そして、その職人が自分の実の父であったのかどうかも、結局分からないまま。しかし、この難解な細工を施した箱根寄木細工の箱。これがなければ、ここへ来ることもなかった。もしかしたらこれが実の父へ導いて、引き合わせてくれたのかもしれない、とも思う。そしてそれが、死んだ母の意志だったのか。今となっては何も分からないが、それでも見たことのない父への想いは、いつまでもヒロミさんの心の中に残っている。
その父かもしれない職人の葬儀を終えて、ふと見上げると、晴れた日の芦ノ湖の向こうに、綺麗な富士山が見えた。

「夕焼けの詩」は、読者の子供時代を回顧させる、昭和30年代の子供たちの話だけではありません。そのことを伝えたくて、今回の話を紹介しましたが、これで一区切りとさせていただきます。
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