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東京遠征 その1 [日々の徒然]

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誰にでも忘れられない味がある、ということを以前書きました。そして私の、もう一つの忘れられない店の話から始めたいと思います。
今回、東京へ行くことが決まって、その際にどうしても行っておきたい店がありました。それは、昔学生時代に住んでいた街にあるラーメン店。私が大学時代4年間お世話になった東京西部のその街は、田舎から出てきた私の「我が街」でした。喧騒な繁華街でもなく、高級住宅地でもなく、オシャレな街でもない、どちらかと言えば地味な街なのですが、どこか住みやすさを感じる街でした。その駅裏の一角にあるそのラーメン店は、店は決して広くはなくカウンター席のみ。それも20人も入れません。今風のカリスマラーメン店とは正反対の、オシャレという感じはまったく無く、地方によくある小さなラーメント店の雰囲気そのままです。料金は、東京にしては極めて庶民的。ご夫婦二人だけで切り盛りするお店なのですが、ご主人が病気がちということで、半年近く店を閉めることもありましたが、牛丼と並んで当時の私の主食に近いものでした。
大学を卒業してその街を離れた後も、東京在住時にはちょくちょく行って、懐かしんでいました。地方暮らしになってからは、ずっとご無沙汰していたのですが、まだ営業していると知って、1年前に東京へ行った時に寄ってみました。しかし、残念ながらその時は開いていませんでした。ご主人の体調が良くなくて、営業時間も縮小して、休みも多くしている、ということは知っていましたが、その時の残念さがどうも残っていて、今回の東京行きの際には、絶対あのラーメンを食べてみたいと決意していました。
まず電話番号を調べて、事前に私の行く日に営業しているかどうか、聞いてみました。電話口にでる奥さんの声は昔のまま。営業しているが、夜8時閉店とのことでした。当時も一介の客にすぎなかった私。名乗ったこともなく、顔を覚えてくれた程度です。こんなに時が経った今ては覚えていてくれるはずもなく、「では、行かせてもらいます」とだけ言って電話を切りました。
東京駅に着くと、すぐにその店に向かいます。店に着いたのは夜7時過ぎでしたが、満席でした。付近の街並は、少し変わって新しくはなっていましたが、それでも何となく落ち着ける雰囲気はそのまま。そして、店の佇まいは昔と全く変わっていません。店の前に張ってある料金表も、当時とほとんど変わらぬ値段のまま。中に入ると、ご主人はすっかり痩せて、奥さんは髪が白くなってましたが、お二人ともあの当時のままに、テキパキと動き回っています。店に入るとき、注文するとき、ちょっと緊張してしまいました。そう、あの当時のまま過去に戻ったような感覚が、私に得も言われぬ感動を与えてくれたからかもしれません。はっきり言って、その時食べたラーメンの味は、今はよく覚えていません。味よりも何よりも、あの店に居た30分弱の私は、当時の大学生の私になっていたのですから。
食べ終わると、もう8時ちかく。店には客は私一人になっていました。ご主人は店の片づけを始め、奥さんに代金を払うと、「ありがとうございました」と、まだまだ張りのある声で一言返ってきました。この声を聞いたのは、もう何度目だろう。あの頃から20数年経っていることを考えると、このご夫婦はもう70歳ぐらいでしょうか。この次に私がこの店にいつ来れるか分かりませんが、ぜひともこのままで、元気に店を維持して、この声を聞きたいと、切に思いました。その時までお元気で、必ずこの街に、この店に、もう一度来ますから、と願うような思いを胸に、店を出ました。外は既にひんやりとした空気が流れていました。
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今回からしばらく、先月行った東京での出来事を書いていこうと思っています。お付き合いいただければ幸いです。
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