以前、ある雑誌のフォトコンテストで入選したときに、選者のプロカメラマンの方から次のようなコメントを頂いた。
「大変素晴らしい作品ですが、トリミングしないで、このような画を撮れるよう頑張ってください」
それ以後私は、トリミングが必要で無いように撮ることを心がけている。
銀塩時代からトリミングというものは有ったのだが、デジタルになって、パソコンで自在に、しかも簡単に、誰でもできるようになった。そしてデジタルカメラの高画素化。以前の600万画素クラスでは、トリミングすると構成画素数が減って、画が荒くなったり大判プリントに向かなかったりしたが、今日の高画素機ではそういった欠点もかなり緩和された。そうなると、わざわざ高価な望遠レンズを買わなくても、後でトリミングすれば同じような画が撮れるのではないか、という考えが出るのは自然。某掲示板などでも、「トリミングで対処すれば」というアドバイスを多く見かける。さて、どうだろう。
仮の話で恐縮なのだが、ちょっとお付き合いいただきたい。もし貴方が少年サッカーを撮りに行って、「その日に撮れた写真のなかで、一番良いと思われる写真を応募してください。優勝者には商品を差し上げます。ただし、トリミングは一切してはいけません」というコンテストが有ったとする。さて貴方は、どう撮るだろうか。


トリミングという後処理ができない。それなら最初から、構図や画面構成を考えながら撮らなければいけない。狙った選手を画面の中でどこに置くか、ボールの位置は、と動き回る被写体を追いながら、求める画を考えなければならない。後でトリミングして被写体を左右に寄せる、という手は使えないのだ。トリミングができない以上、主題をはっきりさせるに、小さく撮る訳にはいかない。許される範囲で被写体に近づき、必要に応じて撮影者自身が移動しながらの撮影になるだろう。ズームレンズを使っていたなら、ある程度の融通性はあるだろうが、単焦点レンズなら、自分が動かない限り、思ったような画角は得られない。ましてや、68m×105mの広いグランド内を、前後左右自在に動く選手とボールが相手だ。一箇所で待ち構えていたのでは、シャッターチャンスは極端に少なくなるし、撮影枚数も少なくなるだろう。画像の傾きを後でトリミングで修正する、という手も使えない。地面に対して水平に撮るときも、意図して傾けて撮る場合も、手持ちで撮影しようが、一脚を使おうが、常に水平を意識しつつ撮影に集中しなければならない。
こう考えてみると、これらのことは、このブログで私がずっと書いてきたこと。サッカーというスポーツを撮る上で、大切だと思える点で、撮影者が常に留意しなければならないこと。更に言えば、これらのことを「後でトリミングすればいい」という甘い考えで、自分に妥協してはいないだろうか。それでは、満足できる画への上達は遠くなると思う。トリミングの善し悪しを言っているのではない。とりあえず撮っておいて、後でトリミングすればいい、という考えが、サッカー撮影にあたって、自分に対する甘えや言い訳になってはいないだろうか。


私もトリミングはするし、その有用性に助けられたことは多い。しかし、こと撮影時にトリミングを前提に撮ることは、まったくしないし、お勧めもしない。自らの体力、技量、機材を駆使して、できる限りトリミングしないで撮るように、常に心がけることは重要なことだと思う。トリミングは、家に帰ってからどうしても、という時だけの助け舟。それを当てにして撮影に臨んでは、言い訳にはなっても、良い画は撮れない。




今回の5枚は全てノートリミング
1枚目
CANON 1D MarkⅢ+EF300mm F2.8 L IS
焦点距離 300mm シャッター速度優先AE シャッター速度 1/800 絞り F3.2 評価測光
露出補正 +2/3  ISO 100  AI SERVO AF  RAW
2枚目
CANON 1D MarkⅢ+EF400mm F2.8 L IS
焦点距離 400mm シャッター速度優先AE シャッター速度 1/1000 絞り F2.8 評価測光
露出補正 +2/3  ISO 1250  AI SERVO AF  RAW
3枚目
CANON 1D MarkⅢ+EF300mm F2.8 L IS+EF1.4xEXTENDERⅡ
焦点距離 420mm 絞り優先AE シャッター速度 1/1250 絞り F4.5 評価測光
露出補正 +1/3  ISO 250  AI SERVO AF  RAW
4枚目
CANON 1D MarkⅢ+EF300mm F2.8 L IS+EF1.4xEXTENDERⅡ
焦点距離 420mm 絞り優先AE シャッター速度 1/640 絞り F4.5 評価測光
露出補正 +1/3  ISO 100  AI SERVO AF  RAW
5枚目
CANON 1D MarkⅢ+EF400mm F2.8 L IS
焦点距離 400mm シャッター速度優先AE シャッター速度 1/1000 絞り F3.2 評価測光
露出補正 +2/3  ISO 200  AI SERVO AF  RAW